とうとう私がキレた!

 今年二月。雑誌「創」で、彼が見沢氏に対する悪口を読者欄に載せた。作家も仕事がなくなり、読者と同じ投稿欄に送るようになるとお終いというが、正にこれがそれだった。
 彼は投稿の中で、見沢氏を作家とは認めない、などと書いて、最後に自分は「作家、I・S(実際には本名)」と署名したのには、驚き呆れ、また苦笑してしまった。
 しかも内容は全く確証もなく、人が言ったことを事実のように書いてあるだけなのだ。さらに見沢氏と、引き合いに出した第三者まで仲を悪くさせようという悪意も見受けられた。
 彼は「霧の中」以下、僅かな小説以外は、全て他人への悪口だけで原稿料を貰っていたのだ。
 そして「創」の次の号に、見沢氏の母親からの反論が載った。事実でない事を書かれた母親の怒りが伝わり、私も彼に対して怒りが湧いてきた。
 折りしも、それを読んでいる時に彼からの電話が鳴ったのだ。
 また金と仕事がない、という愚痴を暗い声で繰り返すばかりだった。
「島田荘司や見沢知簾なんかと出会わなければ良かったんだ。そうすりゃ、二重売りもなかったし、こんなに仕事を干されることもなかったのに」
 この言葉で、優しい私もとうとうキレてしまった。
「あんたねえ、仕事がないのは全部自分のせいなんだよ! それを人のせいばかりにするんじゃない!
 金がなければ外で働きなさい。あなたより身体の弱い人が、みんな時給何百円で頑張っているんだよ!」
「その言い方は何ですか。僕は睦月さんより年上なんですよ!」
「切るよ。もう電話するな」
 私は受話器を置いてしまった。
 さあ、それからが脅迫電話の始まりであった。

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