多くの人と絶縁
「今度、島田荘司さんと会うんですが、どういう小説書いてる人ですか?」
また彼から電話があった。
彼は、どんな大物や有名人と会っても決して緊張せず、臆する事なく堂々と接するから偉いものだと思っていたが、単に彼は相手が何をしている人か知らないだけだったのだ。そしてこの世の誰もが、自分のために何かしてくれると思っているのだった。
「うわあ、島田荘司と会うんですか。僕、大ファンなんです。羨ましいなあ」
ミーハーな私は、また自分の事のように興奮し、「占星術殺人事件」をはじめ、何冊かの名作を教えてやった。
しかし後日、彼は「占星術殺人事件」を読んでも、「何も解りませんでした」と答えただけだった。まあ、ミステリーも一冊も読んでないというから、理解できなかったのかもしれない。
とにかく、彼は本を読まない。書店で買うのは、金髪美人が表紙に載っている女性誌だけで、それをオナニー用に寝室の床に並べ、それ以外に本は増えないのだった。
彼は川端の研究者と言うことであるが、その川端すら、ひょっとしたら二〜三冊ぐらいしか読んでいないのかもしれない。
「川端だと、僕は『掌の小説』が好きですねえ」
「そうですか。僕、読んでません」
そんな会話を交わし、私がガクガクッとズッコケた事があった。
驚いた事に、彼は三島すら一冊も読んでいないのである。大学を三つも出たインテリという事だったが、単に外で働きたくないために長く学生を続けていた坊っちゃんに過ぎなかったのだ。
そして彼は島田氏と対談とサイン会をし、一緒に旅行に出た。その後の経緯や、二重売りのことは周知の通りである。
それが元で見沢氏とも縁が切れ、さらに唐沢氏とも仲違い、と言うより一方的な絶交をしてしまった。とにかく彼は、自分を認めて誉めてくれる人間、金を貸してくれる人間だけが好きなのであった。時に、彼のことを思って意見しようものなら、たちまち絶交される。
もちろん金は返さない。本人が言うように、返せない、のではない。
なぜなら毎年々々何度も海外旅行をして、しかも必ず金髪美人を同行させ、彼女の分まで払っているのだ。人に返す金はなくても、そういう金だけは泉のように湧いてくるのである。
「アイスランドで至高体験をしてきました。天国に居るような素晴らしい気持ちです」
無邪気に彼は言う。『善人なおもて往生を遂ぐ。況んや悪人をや』を地で行ってるなあと私は思った。まあ、いじめられてばかりいる日本を出て、好きな金髪とソリに乗って、夕陽に輝く雪山を見れば、誰だって至高体験できると思うが。
海外で事件を起こし、日本人の信用を地に落とした人がすんなり海外旅行できるというのは、これは外務省が悪いのではなく、日本が本当に良い国だからなのだろうか。
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