高座で漫才を

 彼の多くの知り合いの中でも、高座に上がって一緒に漫才をやったというのは私ぐらいのものだろう。
 平成九年(一九九七)一月。立川談之助師匠のご好意により、高座に上がることになってしまった。ロフトでのトークも良いけど、寄席の高座はまた格別とのこと。
 まあ唐沢さんも漫談で出演するし、二人で猟奇フェチ話でもすればいいやと簡単に考えて、楽屋に入った。すると師匠以下、若手噺家たちはみな壁に向かってギリギリまで稽古しているではないか。
 噺家の楽屋はもっと和気あいあいでリラックスしているものと思ったら大間違い。気楽なのは素人の私たちだけで、プロはみな鬼気迫る眼差しで稽古し、失敗のないよう緊張して真剣なのであった。ああ、こんなプロたちに混じって良いものだろうかと思ったが、もう遅い。
 私は憲兵の姿になって待機。       
 やがて幕が開く。私たちの番だ。
 打ち合わせ通り彼が「ワーッ!」と悲鳴を上げて舞台を通過、上手の幕に隠れる。後から憲兵の私が登場。当時はGON連載中だったので大変な人気。
「皆さん。いま非国民がこちらへ逃げてきませんでしたか?」
 それだけで大爆笑。あとは隠れていた彼を引きずり出し、「毛唐女の尻ばかり追い回しおって!」と軍刀を抜き放ち、彼を叱り付けるという形でスタート。
 あとは徐々に猟奇フェチの漫才、というより対談めいた意見のやり取りとなり、その後は唐沢氏、談之助師匠も交えてのトークショーとなった。
 こればかりは、やりたいからといって滅多に出来ない体験で、今も心に残る非常に良い思い出であった。彼の友人でなければ一生寄席の高座など出られなかったであろう。

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