被害者意識による悪口

 数日後、鈴木邦男氏と宅八郎氏のトークがロフトプラスワンで行なわれた。
 私が行くと、もう客席に彼が来ている。私が挨拶すると、彼は顔をそむけて返事もしなかったが、私はオトナだから常に笑顔で私のボトルで水割りを作ってやったりした。
 やがて彼もゲストとして壇上へ。開口一番。
「宅さんに伺いたいんですが、僕は地下鉄でここまで来ましたが、宅さんは高級な外車で来たそうですね。それをどう思います? 庶民の事なんか分かるんですか?」
 聞いていた私は、ありゃありゃ、と思った。
 要するに彼は、自分に金がない事をやっかんでいるだけなのだ。金もないくせにタクシーに乗りたがり、金髪美人に奢りたがるから、すぐ底をつくのである。
 さらに、小林よしのりをどう思いますか、との鈴木さんの質問に、
「あれはただのバカですよ」
 と言い捨てた。
 私はよほど客席から怒鳴ってやろうかと思った。
(バカはどっちだ! 彼はエイズ問題やら差別問題に真剣に取り組んでるぞ。よしりんが死んだら何千何万人が泣くと思ってるんだ。君が死んでも一人も泣くまい。それは、君が生まれてから一度たりとも、人のために汗をかいたことがないからだ!)
 私は心の中で叫んでいた。
 しかし後日、やがて彼の方から折れ、私たちの中は修復し、また前と変わらない交友が再開されるようになった。
 そして彼の著作、「殺したい奴ら」(データハウス社)のため、イラストを書くことになった。この本のイラストは三人、私と根本敬氏と友沢ミミヨさんで、巻末には、この三人と彼の四人による対談も載せようという事になった。
 対談のため、私は彼の家に行った。
 四人揃い、彼の幼い頃から今日までのアルバムを見ながら、勝手に喋り、それをテープに録音した。
 アルバムは彼の留学時代、何度か日本と海外を往復していた頃、ガールフレンドと、その母親の三人のスナップが多くなった。しかし、何枚もある写真の母親の顔が、どれも爪で引っ掻いたような傷が付けられていたのである。
「これは?」
「ああ、うちの母が、ヤキモチ焼いて傷つけたんです。私とは旅行も行ってくれないのに、人の母親となんか行ったりして、と言って」
 それを聞いて私は、あ、ひょっとしてお母さんもアブナイ人? と思ってしまった。
 やがて対談を終え、後日、その本が送られてきた。対談は彼がテープ起こしをしたようだが、そのアレンジが実にひどく、かなり私は品のない喋り方にされていた。
 しかも本文の中、何と彼のエッセイの中に私の悪口まで書かれていたのである。普通イラストと対談を頼んだ人間の悪口を、同じ本に載せるか? と私はげんなりした。
 それには、ポルノで儲けているくせに、私が鈴木邦男さんにSPA!の連載がやりたいと泣き付いていた、と書かれていた。泣き付いていたとは何事か。どうしてそういう底意地の悪い言い方しか出来んのだ。第一、SPA!の連載が取りたいのなら編集長に泣きつくわい。
 この本には、長嶋茂雄の悪口も書かれている。しかし野球を一秒も見たことがない者に(これは彼が、野球番組はチャンネルを通過する時に目にするだけで、一秒も見たことはない、と言っていた)、長嶋さんの事を書く資格はないだろう。
 まして長嶋さんが死んだら、何万人の人間が泣くか、一人も泣いてくれない彼には理解できないのである。
 とにかく彼は、自分より人気があって稼いでいる人間が嫌いでならない。
そして自分に金と仕事がないのは、自分ではなく、どこかの誰かが悪いのだと思っているのだ。

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