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「そう、あの時はお前を守るのに必死だったっけ…」
婚約したとき、彼女がちっとも懐かないポロンを嫌い、モメにモメた。
「私と猫と、どっちを選ぶのよ!」
などという頭の悪いことを言われ、もちろん「そんな質問しない方を選ぶ」と答えた。
ま、精神的にも金銭的にも多大な損害を被ったっけ。
ポロン一人、何が原因で私が落ち込んでいるのか知ってか知らずか、寝てばっかりいたなあ。
とにかく、ポロンを守りきることができて良かった。彼女が最後に出ていったとき、ポロンは勝ち誇ったように、窓から去っていく彼女の後ろ姿を見ていたっけ。まるでコレットの「牝猫」そのものだ。
そして毎日毎日、ポロンと一緒に寝ているのに、ポロンの夢ばっかり見ていた。
たいてい、ポロンと外にいたり旅に出たりして、はぐれてしまい不安と焦燥に駆られる悪夢ばっかりだった。
ある夢で、ポロンが中学校の校舎の窓から飛び降りようとしていた。
懸命に駆け付けるが、とうとうポロンは窓を蹴って宙に。間一髪、間に合った私はポロンの尻尾を掴んだ。私とポロンは生まれてからいろんな人生を歩んできていたが、それはその瞬間に間に合うために、お互い生きてきたのだと思ったものだった。
ポロンと寝ているときが一番幸せだった。
布団に入ってきてくれる冬が、毎年楽しみだった。
しかし、ある年から中に入らず、上で寝るようになってしまい残念な思いもした。
そして十年が過ぎ、このマンションでの私の生活に、ポロンという存在はなくてはならぬ、空気のようなものになっていた。
またある時、女性を部屋に連れ込んだ私は彼女に触れようとして拒まれた。
「あの、困ります」
「いいじゃないか、ちょっとだけ」
「いいえ、本当にダメです」
などとやり取りしていると、ポロンが走り寄ってガーッと彼女に飛び掛かっていった。どうやら喧嘩して、私が負けていると思ったようだった。
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